父の習慣

父の習慣

父の習慣

脳の回路がつながっていない大人の体をコントロールすることがいかにたいへんかをオヤジの着替えで学びました。おもらししたバンツやシャツを取り替えようと思っても、本人がその気にならなければ、母一人ではとても不可能です。私が手伝うことができれば少々強引でも取り替えてしまいますが、そうでないときは母は時間をかけて、「風邪ひくから取り替えようね」と声をかけ続けます。そのためパンツやシャツを取り替えるのに一時間もかかるということも少なくないようです。

 

 

立ち上がらないときは父の習慣を利用します。父はすぐ腰が痛いと訴えます。ここにすわっていると腰が痛くなるよね」などといって、父の気を引きながら腰をさすってあげたりします。案の定、父は「痛いんだよ」と答えました。すかさず「あっちで横になると楽だよ」と誘います。「そうだな」と父は素直です。もっともいつもこのようにうまくいくとは限りません。床ずれはたいへん父の尾てい骨は赤く腫れています。特に父のようにやせ気味で皮膚がじょうぶでない体質だと、腫れてきた部位の皮膚がすれてきて傷ついてしまいます。小さな傷口から広がって床ずれになるのだそうです。父に床ずれの気配は感じますが、まだ床ずれの手当にまでは及んでいません。ですから、実際の手当のたいへんさと本人の苦痛を私は知りません。父と同い年のご近所のおじいさんの姿が最近見られません。きけば、ひと月前に入院されたとのことです。「集中治療室にいるので、お見舞いにもうかがえないのよ。大きな床ずれができているそうよ」私はわが家を訪問するベテランヘルパーさんに尋ねました。「床ずれって、やはりたいへんなの」

 

「たいへんですよ。こんなに大きな穴がぽっこり開いてしまって、背骨まで見えるんですよ」ヘルパーさんは、床ずれの大きさを自分の片方の手で握り拳をつくって表現しました。「手当はどうするの?」「開いた穴にガーゼを詰め込んで、患部を大きなばんそうこうや布のようなもので覆っておくのよ「そんな手当の仕方で治るの?」「治らないわよ。治らないまま、みんな死んでいくのよ。そのおじいさんも、もう長くはないわね」みんながみんな治らないわけではないのでしょうが、本人の苦痛もさることながら悪化させてしまうと手当はたいへんなようです。できるだけ寝たきりにさせないように注意したいものです。


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